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広島高等裁判所 昭和54年(ネ)39号 判決 1980年2月12日

控訴人

大畠隆雄

右訴訟代理人

中村節治

被控訴人

大田一三

右訴訟代理人

古田隆規

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金一四〇万円及びこれに対する昭和四九年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、各一を控訴人及び被控訴人の負担とする。

原判決中当事者被告欄の「太田一三」を「大田一三」と更正する。

事実《省略》

理由

一請求原因(一)の事実及び本件土地についての道路拡幅工事により、被控訴人の居宅への進入が便利になつたことは当事者間に争いがなく<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

1  広島市道南原線から南原公会堂付近で分れて東進し、南原川(大島橋)を越え、東南方の三鬼ブロツク工場に至る約二〇〇メートルの農道(以下「本件農道」といい、そのうちの南原川までを「西農道」と、それから先を「東農道」という。)は道幅が狭くて、自道車の通行ができなかつたため、本件農道を利用する者は、かねてからその改良を望んでいたが、昭和四七年一一月ころに被控訴人が代表者となり、広島市長に対し、用地を地元民が寄付することとして、本件農道を幅員約四メートルの舗装道路とする工事(以下「本件工事」という。)の施行を要望し、広島市もこれに応じることとなつた。

2  当時控訴人は西農道の両側の土地(広島市可部町大字南原字漆免三六六番、三六七番二の宅地と同所三六四番二、三六五番の田)等を、南原川東部には東農道の南原川に接する部分の両側の土地(同大字字定信一五七三番一、一五七四番の田)を所有している(以下土地は地番だけで表示する)だけであつた。

他方、被控訴人は東農道の両側沿いに数筆の土地を所有し、その内の一五七二番宅地、一五六二番一田は前記控訴人の所有地の南に接しており、前者の地上に被控訴人の居宅がある。

従つて、控訴人と被控訴人とは本件工事に特に利害関係が深く、南原川両岸における道路敷地提供に関して控訴人、被控訴人間で交渉を行つていた。

3  本件工事は昭和四九年四月ころから着工され、間もなく西農道及びその東端に属する大島橋の工事が完成したが、これについて控訴人は前記両側の所有地のうち三五平方メートル(分筆の結果三六六番二となる)及び七一平方メートル(同じく三六四番五となる)の合計一〇六平方メートルを道路敷地として広島市に寄付したので、被控訴人は控訴人に対して、分担金として二〇〇万円(右寄付地価格の六、七割に相当する額)を支払う旨約し、これを履行した。

4  次いで、東農道についての本件工事が施行されることになつたが、これには控訴人所有の土地(前記一五七三番一地の一部以下、「寄付予定地」という)の提供を要するので、控訴人と被控訴人との間に、立川淳人を仲介人として、右に関連して被控訴人の分担について話し合いがすすめられ、被控訴人は前記一五六二番一地の内約一二〇坪を控訴人に贈与することを提案したが、控訴人は寄付予定地の四倍の面積を要求して折り合いがつかなかつた。しかし、立川が控訴人に対して、責任をもつて解決する旨を述べたので、控訴人はとりあえず、本件寄付予定地のうちの本件土地(時価3.3平方メートルにつき約六万円のもの)を道路敷地として広島市に寄付した(同年六月一四日に所有権移転登記手続経由)結果、同部分についての本件工事が施行され、同年七月末には完了した。

その後も被控訴人の分担について協議がされたが、結局成立に至らず、控訴人はその余の寄付予定地の寄付をしないため、本件工事は中断され(一五七三番一地内の計画道路のほぼ半分で止まつている)、被控訴人は、自宅までで舗装道路が行き止まりとなつているため、舗装道路上に自動車や植木等を置いてこれを利用する等、被控訴人の私有道路のような状況にある。

二一般に公共団体が公道を開設するに際しては、公共用道路設置の必要を認めて、道路敷土地の権利を取得し、所定の手続によつて実施するもので、その結果一般人が完成道路を利用するが、公共団体が右権利取得の際右土地の旧所有者の寄付によつたとしても、これを損失とし(そもそも寄付すなわち贈与をもつて損失とすることが矛盾である)、一般人の道路利用をもつて利益として、旧土地所有者と道路利用者間に不当利得の関係が生ずることはないことを通常とする。

しかし、現実問題としては、今日の土地取得の困難性もあつて、公共団体の道路開設は地元民の協力態勢如何がその決定に影響することが大であり、右開設に当つては敷地予定地所有者、開設により特に利益を有する者を含む地元民の協議が前提となり、右関係者間においては成立した協議の結果に従つて処理されることがある。

これに関して、右協議が相当に進行し、成立を予想して手続が進行し、公道の完成利用に至つたものの、結局協議成立に至らなかつたようなときに、協議の経緯、道路の利用形態には、各場合において、相違があり、関係者間に、特段の事情が認められる場合には、利益、損失の存在とその関連を肯定して、公平の理念からする不当利得を適用すべき場合があり得ると解するのが相当である。

三前記認定事実及び見解により本件を検討するとき、本件工事における控訴人と被控訴人の立場、右両当事者の交渉と西農道工事における出捐の分担、東農道工事に際してのこれについての交渉及び工事完成部分の利用状況等を総合検討するとき、東農道工事完成部分について控訴人が敷地を寄付してもつぱら出捐し、他方被控訴人が全く出捐を免れていることは、被控訴人の出捐相当分について、被控訴人が、控訴人の財産により利益を受け、これによつて控訴人にそれだけの損失を及ぼしたものとして不当利得が成立し、被控訴人は工事完了時にはこれを知つていたものと認めるのが相当である。

なお、控訴人は、一五七三番一地の残地(<証拠>によれば、三九六平方メートルあつたものが、前記一部の寄付、分筆により三二三平方メートルになつたことが認められる)の時価の下落があつた、として、これにも不当利得を適用すべきものと主張するが、損害の確証もないし、採用しがたい主張である。

四前記被控訴人の出捐相当分については、西農道について被控訴人が控訴人の支払つた額を基準として、東、西両農道に対して控訴人が寄付した面積に従つて計算するとき一四〇万円となり、これに前認定の東農道工事は主として被控訴人に利益を与えること、本件土地は農地であるに対し、西農道への寄付地は宅地を含むこと、被控訴人は東農道工事が完成する場合として農地一二〇坪の譲渡を申出ていたが、現在一五七三番一地内の半分位で工事が中断したこと等の事情を参酌するとき、その額は少くとも一四〇万円に当ると認定する。

五以上の次第で、被控訴人は控訴人に対して一四〇万円及びこれに対する工事完了後の昭和四九年八月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による利息を支払う義務があるから、控訴人の請求は右限度で認容すべきである。

よつて、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であるからこれを変更し、控訴人の請求を右限度で認容してその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言については相当でないので申立を却下し、なお原判決の当事者の被告氏名は本判決被控訴人氏名を誤つたことが明白であるので更正することとし、主文のとおり判決する。

(辻川利正 梶本俊明 正嵜正清)

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